空中ブランコ 奥田英朗
「尖端恐怖症」「イップス」「強迫神経症」「嘔吐症」・・・。主人公は心の病を抱えている。かなり末期的な症状が出て追い込まれている場合もある。しかし、それをひた隠しにしなければならない理由があり、追い詰められて精神科の扉をたたくことになる。

「空中ブランコ」は精神科医伊良部一郎のもとを訪れた人たちの再生の物語だ。精神病というシリアスなテーマが、とても痛快でときに笑いをさそう娯楽小説にまとまっている。まず駄目な人がにっちもさっちもいかない状態に陥る、という状況設定が喜劇のセオリーどおりで、さらにそれをかき回す変人が登場する。それが精神科医伊良部一郎だ。

この中年のまるまると太った精神科医は、無邪気で常識知らずで患者を遊び相手と勘違いしているようで、人が注射を打たれているさまを見るのが大好きらしい。注射を打つ、彼の助手的存在の看護婦マユミちゃんはミニの白衣を着ていて、いつも不機嫌そうな、得体のわからない女性だ。

当然まともな治療は行われず、どちらかというとさらに事態を悪化させていく。しかし、主人公は悩み苦しむなかで、ときに伊良部の無邪気さや割り切れば楽しめるキャラに癒しや勇気をもらいながら、自分自身で心の病と対峙していく。

どたばたしているのに乾いた印象を感じるのは中島らもに近いかもしれない。奥田英朗の作品は初めてだったけれど、久しぶりに夢中になって、ときに声をあげて笑いながら読んだ。伊良部のキャラの楽しさはもちろん、どたばたの中で必死に奮闘する主人公たちの姿もとても上手い。多分めちゃくちゃシリアスな小説も得意な作家だろう。
そしてそんな物語の最後、主人公はさまざまなかたちの解決を得るのだけど、そこではほのかな感動すら感じるのだから、文句なくすばらしい小説だ。

興味を持ち調べてみたところ、シリーズものらしくその1作目「イン・ザ・プール」は松尾スズキを主人公に映画化されるそうでこれも期待できるかも。とりあえず「イン・ザ・プール」も絶対読みます。

この話のミソは、主人公よりよっぽどはた迷惑な精神科医がまったくの健康体で毎日を生き生き過ごしているところにあると思う。
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by kngordinaries | 2004-11-21 00:03 | 小説


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