ファイブ 平山譲
バスケットボールの話。本当にあった話。

この本を貸してくれた友人から聞いていた事前情報はこれだけ。ちゃんとブックカバーもついていたので表紙も隠れている。1ページ目を開くまでにここまで情報少なく読み始めたのは久しぶりだった。

いきなりバスケの試合中、それも終盤から文章は始まった。小説のような映画のような普通のドキュメンタリーとはおもむきの違う語り口にさっそく話に引き込まれてしまった。

繰り広げられている試合は、日本のJBLというリーグの決勝戦だ。プロ化していない企業スポーツであるバスケットボールの年に一度の日本一決定戦は、世間的には大した盛り上がりをみせていない様子。僕もJBLなんて存在を知っている程度なので、その人気のなさはよく分かる。決勝戦を戦う2チームのうち、片方はこの試合を最後に消滅する。母体である企業本体の不況にによる経営不振から、利益を生まない部活動はまっさきに廃部にさせられるのだ。
この本で主人公的ポジションにいるのがこのチームのキャプテン佐古賢一。「ミスターバスケットボール」との愛称をもつ日本代表経験もある名PGだ。すでにベテランの域である32歳の名選手は、がむしゃらに奮闘し、最後の1投に全てをかけて3ポイントを放った――。

32歳のバスケット選手はチームの廃部とともに、引退の危機に陥った。本気でバスケットをやってやり抜いて燃え尽きるまでやった、とは到底いえない幕切れはどれだけ歯がゆくてやるせない思いだろう。鬱屈とした状況とあきらめきれない想いを抱えて川辺でぼうっとしているところは痛々しかった。

結局、佐古はアイシンというチームに移籍することになった。数年前までは弱小チームだったこのチームは佐古のようにリストラにあったベテランの名選手を獲得し、成績をあげてきたチームだった。
そのチームのコーチや部長、選手の一人一人にドラマがある。若いとはけしていえない大人たちがバスケットボールにかぎりない情熱を捧げる姿がとても力強く描かれている。興行として成功していないスポーツに人生を賭けることのリスクは計り知れないものがあると思う。

今NBA挑戦中の人気者、田臥勇太選手もところどころで登場。そのまぶしさとリストラチームの泥臭さの対比がなんともいえない。「二十二歳の田臥が『明日の選手』であるなら、三十二歳の佐古は『今日がすべての選手』であった」、なんて描写も印象的。

リストラチーム、アイシンの活躍だけ描かれるのではなく、その周辺の多くの人たちの関係性もつぶさに描かれていて、後半にそれが冒頭の決勝戦から1年後にアイシンが上り詰める決勝戦で1つの大きな物語としてまとまっていく構成は、どんな作り物のお話よりも感動的でできすぎている。
特に佐古と同様に廃部によって多くを失った小浜監督70歳のそこからの這い上がり方のパワフルなことといったらもう、痛快だった。

僕あたりの世代でいえば、バスケットボールといえばイコールそれはスラムダンクだ。もちろん漫画の。ミッチーが安西先生に「バスケがしたいです」といったとき日本中の少年ジャンプを読んでいた中高生が流した涙はどれほどかわからないし、僕も例外ではなかったけれど、この本も負けてなかった。

悲しいとか涙ぐましいとかじゃなくてこのうえなく爽快な涙という意味でも、いい勝負。
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by kngordinaries | 2005-05-18 00:55 | 本、雑誌、マンガ


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