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アメリカン・ビューティー
何を必死に追い求めているのか。

冷静な目で観ているこちらからすれば滑稽なほどに、切実な想いを抱えた登場人物たちが忙しなく、苛立ち、奮闘している。そしてそれは多分に私利私欲のためだ。もし彼らのうちひとりをクローズアップして肯定的な目線からカメラが追えば、それは一生懸命に人生をエンジョイしようとする好感のもてる主人公になったはずだ。

娘の友達に本気で恋をして、好かれようとあらゆる努力をする父親。枯れきった夫婦関係とうまくいかない仕事に苛立ち、別の男性と関係をもつことでストレスを解消する母親。美しいものを映像にして残したい、と強く思うオタク青年に恋をする娘。3人は別々の方向に幸せを求めて必死に努力する。そこには家族という価値は存在しない。

オタク青年のお気に入りの「美しい映像」、白いビニル袋が枯葉と一緒に風に舞いくるくると舞い続ける、というそのからっぽな綺麗さがなにかの象徴のようで、なんだか気分がいいんだか悪いんだか分からない複雑な気分にさせられた。

とても観念的な話だと思うし、その描き方はコメディと言ってもいいくらいの突き放し方だ。ただ一方で、始めから明かされているお話の結末に向かって、全てのピースを集め、並べ、当てはめていくという、驚くほど精緻で複雑な作りこみがされている上質なサスペンスでもある。その伏線の一つ一つが絶妙に機能して、このどんな事件より実はもっとも救いがないんじゃないかと思うような悲しいお話に対する観劇者の関心を持続させる。

ケヴィン・スペイシーとアネット・ベニングの熱演は凄い。その作品への理解度の高さには脱帽。

すでにスタンダードになりつつある分かりやすい二元論じゃないグレーゾーンを描くこと、のそのさらに一つ先を描いているような新しい問いかけがここにはある。いやそれは受け手が感じているだけで、作り手はただただリアルにおもしろい映画を作っただけのことだと思う。

少しデフォルメすれば最高の喜劇に、少しトーンダウンすればありえない悲劇にもなるところをクリアな視点と穏やかな語り口で丁寧に仕上げたとても真っ当に素晴らしい映画だと感じた。
by kngordinaries | 2005-06-22 00:21 | 映画、ドラマ


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