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容疑者 室井慎次
予想以上のロングラン大ヒットとなった「交渉人 真下正義」に続く、「踊る大走査線」シリーズのスピンオフ第2弾作品であるこの作品。
今回は単品で楽しめる娯楽作「交渉人」とは違い、あくまで「踊る」シリーズの流れを組んでいて、シリーズ中でも主人公青島に続く重要人物である室井慎次が主人公を務めている。

警視庁刑事部捜査一課管理官である室井が容疑者として逮捕される、という衝撃の展開はそれだけで踊るシリーズを観ていたものとしては見逃せない。
巧みなサスペンスとめくるめく予想を裏切った展開をみせるストーリー、リアルな警察社会を描きながらそこから浮かび上がる哲学的命題、とシリアスサイドの踊るシリーズの魅力をぎゅっと詰め込んだ濃厚にして重厚な作品だった。

※この先、公開直後の映画についてネタバレが予想されるのでご注意ください。

※特に観る予定の方、なにも知らないほうが数10倍楽しめますので!







前半からの抑えたトーンの演出が、いままでの踊るシリーズとの監督の違いを感じさせられた。警察庁・警視庁の勢力争いの図式の説明を含めた今回の室井逮捕をとりまくそれぞれの事情がナレーション主体で淡々と語られていく。巧みな時間軸のシャッフルと、矢継ぎ早に伝えられる情報量の多さに少し戸惑った。

室井を演じる柳葉敏郎の演技がすさまじい。逮捕され釈放されるまでほとんど沈黙している室井のその複雑な胸中を、表情の微妙な変化でこちらにしっかりと伝える熱演。共に闘う弁護士小原を演じる田中麗奈は、それと好対称の軽快な演技っぷりがとても印象的。

今回の上下構造の下っ端を表現する新宿北署の面々は哀川翔演じる工藤を筆頭に、型破りでひたむきで、教会を思わせる造形の北署とともにいい存在感を放っていた。
そして上下構造とはちょっと別のところからの新たな勢力、八嶋智人演じる灰島を中心とした灰島法律事務所の面々は、人間らしさを極力薄めたキャラクタで法律、金といった新たな縛りをストーリーに持ち込んで大活躍する。特に吹越満演じる篠田と灰島のやりとりはなんともいえないおもしろさ。
灰島の事務所で朝日が後光のように差す灰島や、室井の「勇気の灯が消え」るその瞬間を日没の暗闇と重ねた演出はとても示唆的でおもしろかった。そこから光が差し込むそのカタルシスは絶品。

さらに検察、そして公安も登場してとぐろを巻く後半の怒涛の展開は、ある社会の上だけ下だけをクローズアップせず、全体を見つめる視点がとてもよかった。この点はいかにも踊るシリーズらしい。
そしてその組織の中はやっぱり図式の点や名前を表す文字列じゃなく、血の通う人間ひとりひとりがいて、それぞれに人生がありそれぞれに信念がある。全体を見るには個の詳細も必要で、今回は頑固でまっすぐな男・室井慎次の過去が明かされる。

クライマックスの取り調べシーンのその手に汗握る緊迫感は最高だった。まったく派手さはないけれど、それぞれの思惑や葛藤のぶつかり合いと、絶体絶命の窮地から反撃に転ずるそのダイナミクスはたまらない。
そして衝撃の事実と予想だにしない展開でこの物語はひとつの終わりを迎える。

踊るシリーズ全般に言えるけれど、けして上と下のどちらが正しいとか、室井が正義だとか、法律を重視するべきとか、なにか結論めいたことを語ることはない。
ただ、そこに渦巻く熱い信念やいろいろな可能性を提示するだけだ。
今回は室井という上と下に挟まれて孤独に闘いつづける人間の生き様を丹念に見せていた。そこから読み取るものは人それぞれだと思う。

室井がコートを着るときの大仰な演出やスリーアミーゴス等のシリーズでおなじみのキャラクタ等、シリーズ色強めで、初見の人には敷居が高いかもしれない。和久さんや青島の存在も会話に登場するし、人間関係も理解しにくいかもしれない。あとシリーズのコメディ的、アクション的要素が好きな人たちには受け入れにくいかもしれない。

地味でシリアスでサスペンスフルな踊るの魅力を極限まで表現した傑作だと思う。

テレビシリーズ後半の真下警視が撃たれるあたりのシリアスなトーンの踊るが好きな方におすすめ。気合入れて観るべし。

容疑者 室井慎次 Production Reportに恐れ多くもトラックバックさせていただきました!踊るシリーズの今後にも期待してます!
by kngordinaries | 2005-08-29 11:51 | 映画、ドラマ


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