スピード 金城一紀
いつか、おまえのジュテ(跳躍)を見せてくれよ

「レヴォリューション No.3」「フライ、ダディ、フライ」に続く、「ザ・ゾンビーズ」シリーズ第3弾。今回の主人公は平凡な女子高生、岡本佳奈子。
普通の人生を歩んできた人が大きな壁にぶち当たり、ゾンビーズの手助けのもとそれを乗り越えていく、というストーリー展開は「フライ、ダディ、フライ」と同じだ。おなじみのゾンビーズの面々のやりとりもいつもどおりとびきりの面白さと味があって、早くもおなじみの定番シリーズとしてフォルムが固まったようだ。

そうなるとどうしても前作と比べてみてしまうのだけど、自分の娘に対して理不尽な暴力を振るわれた父親と、仲のよかった家庭教師の不可解な自殺に遭遇した女子高生ではどちらがドラマティックかというと、正直前者だと思う。しかも前作は80年代のスポ根もびっくりの肉体改造を行う主人公の努力があったけれど、今回の主人公はそれに比べたら大したことがないように見える。

しかし、読んでいるとそうでもないのだ。お堅い女子高の窮屈なコミュニティを突き破ろうとする勇気や、16歳の身で危険な道を選択するその度胸が、丹念にリアルに描写されていてとても切実で劇的に胸に迫る物語になっている。

「こんなもんか」
物語の途中で変わっていく女子高生は、それまでいた世界を俯瞰するようになる。全てが大した物じゃなかったように思えて「こんなもんか」と軽くいなしていく。それは一つの大きな成長だし、進歩だと思う。ただ、作者はそこで終わらせず、もうひとひねりした世界を見せる。物語の終盤、これから最後の冒険に出る直前、窮屈な世界にいるクラスメイトに対して彼女はこんな心境になる。
「みんなはこんな窮屈な場所で一緒に闘ってきたわたしの戦友なのだ。二度と、こんなもんか、なんて思わない」

その成長に一役買うのはもちろんゾンビーズだ。リーダー南方を中心に最高の不幸キャラ山下も絶好調。朴舜臣は今回もなかなか重要な役回りを演じ、対女性だからかずいぶん優しさも見せている。
しかし、今回の裏の主役はなんといってもアギーだろう。ゾンビーズのメンバーではなく、情報屋の一匹狼であり、超2枚目キャラの彼は情報屋としても主人公の成長を助ける役としても大活躍。母親も登場し、ゾンビーズよりも出番が多い印象。
「映画に出てくる主人公のセリフで、こんなのがあるんだ。『この世界で確かなことがひとつある。歴史もそれを証明してる。人は、殺せる』」
「で?」
「この世界で確かなことが一つある。歴史もそれを証明してる」
アギーがまたそこまでセリフを暗唱すると、車が赤信号で停まった。アギーはわたしを見て、続けた。
「女は、オトせる」
一瞬意識が遠のきそうになったけどどうにか堪えて続きを書きます。

ジュテとはバレエの跳躍のことで、昔のヨーロッパの階級社会の慣習や伝統を重力に見立て、それに逆らってどれだけ高く飛べるかに当時の観客は感動したのだという。
その話に象徴的なように、ゾンビーズシリーズ、というかデビュー作「GO」以来金城一紀の表現は一貫した伝えたいメッセージがあり、それはずっと風化しないようだ。目の前の壁を越えること。一歩、枠から出て行くこと。今回も平凡な女子高生の冒険を通してその想いはしっかり伝わってきた。

ただ、今回の話はサイドストーリーとしてあった主人公の家族の物語がいまいち全体に絡んでこなかったり、後半のクライマックスのゲーム性が薄かったようで盛り上がりが弱く感じたり、ちょっと残念な部分もあった。

ゾンビーズは永遠普遍のサザエさんシリーズのような設定じゃない。いつか彼らは高校生活を終える。自分達の強固な絆から離れた世界に出て行くことになるかもしれない。
そんな彼らの行く末まで親身になって心配したり、そこで展開されるであろう冒険に期待したりしてしまうくらい彼らにはまってしまうこと間違いなしの絶好調のシリーズ3作目。

「フライ・ダディ・フライ」のキャスティングでの映画化希望!
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by kngordinaries | 2005-09-27 02:14 | 小説


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