アナログフィッシュ キッス・ジャパン・ツアー 京都磔磔
秋の京都の素晴らしく狭い路地裏に、ライブハウス磔磔はこの上なくひっそりとたたずんでいた。

ずいぶん昔に免許を取ったはずなのになぜか初心者マークの僕は、近くのコインパーキングを探して何度も危なっかしい状況に陥りながら、会場周辺に到着して小一時間ほどぐるぐるまわった。

会場前の道路沿いには「磔磔」と書かれた木の看板があり、その奥にはまさしく「奥田民生ひとり股旅」の映像で観た駐車場と、蔵にしか見えない建物。それが磔磔だった。

開場15分前に到着するとまだ3,4人しか人がいない。名古屋ライブと同じような光景になるのでは、と不安がよぎったけれどすぐに続々と人が集ってきた。開場直前にはすでに100人以上の人がいてもう名古屋の動員を越えていた。ある意味悲しい。

ほとんど古い民家の玄関のような入り口から会場入りし、ロッカーではなく後ろの土間のようなところに適当に上着を置く。思っていたよりさらに狭く名古屋ELLより少し小さいくらいだ。準備を整えてステージ方面へ向かい、5列目くらいに陣取る。ちょうど観客フロアのど真ん中に大きな梁があったのだけど、そのすぐ右側、つまり下岡側。

ステージは思ったほどこてこてに和な雰囲気ではなくわりと普通。高さがないのでドラムは見えにくい。でも床は木だし、他に比べて独特な雰囲気があることは間違いない。

当日券も出ていたけれど、ほぼ最後方までぎっしり人で埋まりきり、後ろを通りますので少しよけてください、というよく意味が分からないアナウンスからライブは始まりのときを迎えた・・。


※この先ツアー中のライブについてとても多くの詳細なネタバレがありますのでご注意ください。




BGMがロックパーティーのような派手な曲に変わり、ライブが始まりそうな雰囲気に。ステージに注目していると、後ろから歓声が上がった。とっさに振り向くと、後方の階段から降りてくる佐々木健太郎!
お得意で特異な顔芸と奇妙な身振り手振りで煽る煽る。その後ろからだらりと長い腕を落として佐々木を見ながら笑っている下岡、さらに斉藤が降りてきて左隅を通って前方のステージへ。

「○×◆△☆!!キッスジャパンツアー!はーじまーるよー!」
とこれまたOTODAMAで観たときのようなわけの分からないテンションでまくし立てる健太郎に観客は笑いと歓声で答える。軽く音を出す3人、そして。
リー・ルード!」
下岡のシャウト。そして掻き鳴らされるギターリフに一気にフロアの熱は爆発し、下岡の「リー!」に「ルー!」と腕を高く上げて答える。このアホなコール&レスポンスが最高に気持ちのいい瞬間だった。
突き抜けてて明るくてポップで、でもひねくれたこの曲は、このバンドの深い魅力はそのままにとてもオープンでリラックスした世界観を持っている。
1年前の名古屋のほとんど微動だにしない観客を相手に音の力のみで静かに静かにねじ伏せていったライブとは実に対照的。
スピード
さらに勢いを増してぶっちぎるスピードで会場はヒートアップしていく。サビのコーラスの3声が重なったときの響きが心地いい。そして2コーラス後の演奏では佐々木と下岡がお互いの顔を10cmくらいの距離まで寄せ、至近距離でベースとギターのアンサンブルを聞かせてくれた。とてもスペシャルな光景だった。
「傾いたまま世界はまたスピードを上げて」
紫の空
「KISS」からの曲で圧していくかと思えば、変化球で佐々木の美しいメロディと歌声が響くこの切ないアップチューン。
ここでドラムとベースの気持ちのいい音に乗っかって下岡があいさつ。
「ハローハローハロー。アナログフィッシュです」
そしてしばらくのセッションのあと、ジャカジャーンというこの上なくシンプルでイージーで最高なギターが鳴り響き
「ハロ―――――!!」
Hello
熱すぎるライブ開始からの盛り上がりのあと一息つく間もなく、最高のポップチューンが鳴らされる。
「今 世界と音信不通で上の空」
と歌いだしから最高だった。これだけポップな音に乗せ無表情にぶっきらぼうな歌声で歌う下岡はかっこいい。これだけの熱い支持を受けているのに彼は目をうつろに宙をさまよわせながら
「Hello!」
というシャウトを繰り返す。そこにねじが外れたようなどしゃめしゃな唯一無二のドラムと、ぐいぐいと曲の骨となり観客の腰を刺激するベースが主張する。これがこのバンドのいびつだけど最強のフォルムだ。
「Hello New world」

ここで斉藤MC.。
「京都ですね・・。きょう、と・・」
気持ちがいいくらいのノープランぶりにくすくすと笑う観客。
「あれ?ギター替えた?」
「弦切れちゃって」
と替えのギターをチューニングする下岡。
「同じようなやつだね」
と佐々木。確かに変わった感じがまったくしなかった。
相変わらず言葉数の少ないMCだったけれど、以前より格段にリラックスした印象。

Queen
「頭ん中なら自由だ」というスローな宣言から始まるディープでサイケデリックなミディアムチューン。とんでもない幻想感。
「Baby君のworldと Baby僕のworldが 似てるなら 似てるだけ 勝手に君を近くに思うのさ 大丈夫狂っちゃいない」 
いつのまにか
同じようなミディアムチューンなのに、恐ろしく落差のある曲順。暖かで柔らかな気持ちのいいメロディー。
このあたりだったか、佐々木のベースのストラップが切れて頑張って支えながら演奏していた。それの修理をしている間もギターとドラムが即興で演奏。
「直りました!」
と嬉しそうな佐々木。
月の花
佐々木ボーカルの親しみやすい歌謡テイストのメロディーと伸び伸びとした歌いっぷりが気持ちがいい爽快な1曲。心地よく伸びる歌声が気持ちよかった。

ここでMC。いつのまにか飛んでいた眼鏡を掛けなおして斉藤が
「(眼鏡が)曇ってますね・・。えーと、何を話しましょうかね。今日はみんなできつねうどんを食べました。」
「京都では初めてだよね!ちゃんとしたもの食べたのは。い、いつもコンビニとかのか、からあげクンとかで・・」
と佐々木。
「そうだね。みんなきつねうどん食べたのに、一人だけ違うのを頼んだ奴がいまして」
と斉藤。佐々木が勢いよく手を挙げて
「はい。天ぷら定食食べました、僕。美味しかったです」
「天ぷらが美味いのは知ってるよ、俺だって」
等々。まったりまったりな相変わらずMC。
そして下岡の曲紹介から次の演奏へ。
「ハーメルン」

ハーメルン
ライブ開始から素晴らしかった演奏がこの辺からまたさらにがっちりと噛み合っていく。リバーブを効かせた音作りでこの幻想的で狂気すら感じる曲が奏でられて圧巻だった。
「隣人が目をまっ赤に腫らし 新品のナイフを構え 僕の帰りを待っていた」
「バカみたいな宴のあとは バカばっかりだ僕も含めて バカみたいだろ? バカみたいだよなぁ?」
この曲に限らず、演奏も歌も音源どおりではなく、その表現したい感情や世界感に合わせてアドリブで微妙に姿を変え、なんとも言えないジャストな音世界が広がっていた。凄い集中力と柔らかく卓越した感性。
ナイトライダー2
出だしのドラムだけでグッときた。さらに深く深く、シリアスで不穏な世界を撒き散らす「KISS」の中でも重要曲。下岡の歌がさらにエモーショナルに響く。静かでシリアスな曲ほどこの人はエモーショナルになる。うつろな目線はそのままに。
バタフライ
この曲はどちらかというと演奏のダイナミズムで魅せる曲だという印象があったのだけど、この並びで聞くと前の2曲と共通する不穏で不気味なでもなんともいえない気持ちよさのあるディープなゾーンの魅力も強くあることに気付いた。

ここのMCではツアーのチームでのホテル話を。
「3人と4人、2部屋とってたんですけど、寒いし12.5畳に7人で寝ようと言ってたんです。けど、寝る直前になって2人が逃亡して」
と下岡。
「俺は残ったよ」
「俺も」
と他の2人。一瞬の間をおいて下岡が口を開く。
「俺らやっぱチームワークいいなー」
・・ほんとにつかみどころのない人たちだ。
そのあと
「でも逃亡したい気持ちも分かる」
との誰かの発言に
「アホ。絶対みんなで寝たほうが暖かいんだよ!」
と吐き捨てた下岡が最高だった。

白黒ック
何回聞いたかわからないおなじみのベースが心地いい初期の超ポップチューン。ここまでのディープゾーンを一気に振り払うかのような爆発的な盛り上がりを見せるフロア。わりとモダンな音なのに激しく、コミカルなパートがあったと思えば迫力のコーラスを効かせるこのバンドらしい多くの要素が詰まった初期の代表曲。
「夜空は 無神経に黒 真っ黒くてカッコいいな。」
「僕は 思考停止で白 真っ白くてカッコ悪いなぁ。」
LOW
さらに初期のアンセムを畳み掛ける。情けない男の激情が美しいメロディーで切なく歌われる感情がフルに振り切れた名曲。熱い熱い熱唱だった。
「How are you? 気分はどうだい 僕は限りなくゼロに近いLOW 胸焦がして 歌いながら」
確信なんかなくてもいいよ
さらに汗を撒き散らしながらの佐々木の熱唱がかっこよすぎるこの曲。インディーズでの傑作アルバム「世界は幻」からこんなにも披露してくれるとは思わなかった。
一気に最高潮まで盛り上がり軽く一息ついた静寂のあと下岡が口を開く。珍しく思いっきり観客に向けてることを意識した喋り方で。
「ドゥーユースティルニード ビージーエム?」
もちろん「ノーサンキュー!」の大合唱で答える観客。さらに大きな声で問いかけを繰り返す下岡にさらに大歓声で答えるフロア。そしてもう一度、お互い絶叫のようになりながらのコール&レスポンスから、最高のアンセムが鳴りだす。
BGM
歌えて踊れて熱くなれる、最高に開放的で気持ちのいい音楽に乗り「音楽」の巨大さを歌ったアップチューン。「B!G!M!」の大合唱!
「この街はMusic」
そして余韻に浸る間もなく、あのイントロが鳴り響く。
Town
ドカンときたドカンドカンドカンときた。静かに軽やかに始まるこの曲は少しずつ熱を帯び、物事の確信にフォーカスを合わせていき、掛け合いのコーラスでサウンドが爆発していく。このバンドらしさと楽曲単体の破壊力を最高に高めた一曲。長尺な曲なのだけどCDで聴いていてもライブで聴いてもいつもいつもなんでこんなに早く終わっていってしまうのかなごり惜しくなるくらいに聴きつづけたくなる。
「君の住むTownはどう? 僕の住むTownはDown 君のいるWorldはどう? 僕のいるWorldはアップアップさ」
「down down go down to the world」

ここで「今日は最後までありがとう」といった風な締めのMCがあり本編ラストチューンへ。

僕ったら  
暖かいような寂しいような美しいような情けないような人間臭いラブバラッド。「Town」がある意味でとても大きな世界を歌っているのに対してこちらは1対1、とても身近な狭い世界のコミュニケーションを歌っている。そのふり幅は究極に大きいけれど、違和感なくこの場で溶け合っていた。
歌の裏声の部分が声がかすれて出ず、振り絞って必ず1テンポ遅れてなんとか少しだけ出していたけれど、それがさらにエモーショナルに響いていた。暖かな余韻を残して本編は終了。


熱い熱いアンコールの拍手に再び階段を下りてくる佐々木健太郎!

ん?佐々木のみ?しかもアコギを抱えている。

「今回のツアーのアンコールで僕一人で弾き語りコーナーをやってまして。メンバーもやる曲を知らないんです。他人の曲をやります」
OTODAMAのときの「家族の風景」みたいな感じかな、と期待していると演奏が始まる。
「大きなバーイクにぃ乗ってー♪」と伸びやかに歌いだされたのは、なんと(!)、アナログフィッシュの曲。でも本来は下岡ボーカルのナイトライダーだった。
とても意外な展開にざわめき歓声が上がる。朴訥でぶっきらぼうな下岡節と180度反対に感情豊かに噛み締めるように歌う佐々木の弾き語りナイトライダーは、本家とは違う意味で最高だった。
そして曲が終わり、
「ありがとうございました。それではアナログフィッシュのみなさんどうぞー」
ということで登場する苦笑いの下岡とニコニコの斉藤。
「いい曲だね」
と下岡。観客笑。
ここで斎藤からだったか、ご褒美のバナナをもらいがっつく佐々木。しかし半分食べたところで客席へ食べかけのバナナを投げる。何かをステージから投げられて避ける観客というのも珍しかった。ゲットした人もどうしていいか困惑気味。
そして下岡が
「健ちゃん。あとで俺の口座番号教えるから」
・・・これは著作権の関係で振り込めと? 
「俺もやなんだけどね。そういう決まりとかあるしね」
思いっきり理不尽なのになぜかヘコヘコする佐々木氏。
そして3人が顔を寄せ合って相談タイムののち
「新曲のイワシという曲をやります」
アルバムツアーで新曲って!意外な展開に盛り上がるフロア。
そして奏でられた新曲はベースがグイングインとグルーヴィーなアップチューン。ただ、断片的に聴こえた歌詞はかなりシリアス。下岡曲なのだけど「魚の目をした青年」が主人公で彼の生活が物語になっているようだった。「朝起きてコーヒーを入れて」とか「ただ泳ぎたかっただけ」とか「夜中にだけ夢を見る」とか「朝も昼も夜も青年は」いう歌詞があったような。
とにかく聴いている間中鳥肌たちまくりだった。下岡がほぼ自分を投影したようなある青年の一日の生活を描く、という表現をしたことがまず驚きだった。そしていままでになくAメロやBメロから全編に渡って歌がエモーショナルだったことも。最新曲で演奏に必死だっただけかもしれないけど。
そしてもう1回3人顔を寄せ合っての相談タイム(多分なにも話してない)のあとラストチューン。
世界は幻
いつ聴いても、たまらなく心を締め付ける最高のロックバラッドで締め、ステージ最前でおじぎをしてアンコールも終了。

すぐに客電が付き、退場を促す音楽が流れ出したけれど、ほとんどの観客が熱心にアンコールの拍手をやめない。しばらく続けていると、佐々木がダッシュでステージへあがる。
「アンコールありがとうございます。すみませんけど、もう曲の用意がありません。今日は本当にどうもありがとう!」
といって真摯に何度も頭を下げ退場。律儀な態度にみな惜しみつつも笑顔でライブは終了。

なんというか、ざっくりこうと言い切れない、いろんな要素が詰まったこのバンドらしいライブだった。前半と後半の弾けるところと中盤のディープなところがさらに振り切れ、下岡と佐々木の楽曲の方向性もさらに振り切れ、そうなればなるほど演奏が自由に豊かに広がっていくようだった。
スケールの大きなバンドになった、と思った。もともと小さなライブハウスを熱狂させることを目標にしてはいなかっただろうけど、彼らの理想はきっとかなり途方もないものだったと思う。そこに対してもの凄く少しずつながら確実に前進している、その確信があるような自信に溢れたライブだった。ちょっと脇にそれたらそれは確実に見えないところまで遠のくことをよく知っていて、注意深く丹念に日々を過ごすミュージシャンたちに見えた。

もしかしたらこれだけ熱い観客の姿もあまり見えていないのかもしれない。自分たちがやりたいことをやることで多くの人を熱狂させる、奥田民生やくるりのような正しいミュージシャン道へまた一歩確実に進んでいるような。

間違いない。全然問題ないよ、アナログフィッシュ。もっともっと自由に泳いでほしい。
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by kngordinaries | 2005-12-06 02:33 | ライブ


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