THE 有頂天ホテル
お帰りなさいませ、お客様。
当ホテルは愛と勇気と素敵な偶然を
お届けします。

『みんなのいえ』から実に4年ぶりの三谷幸喜の新作映画、というだけでも十分話題性がある。
しかし、この作品はさらに主演級の俳優が20人以上登場するオールスターキャストムービーであり、脚本家三谷幸喜がその手法で何本も傑作を作り出してきた閉じた空間でリアルタイムで同時に複数の物語が展開し複雑に絡み合いながら矢継ぎ早に展開していくノンストップコメディである、という。

コメディは劇場でお客さんの笑い声が入ってきて初めて作品として完成する、とことあるごとに発言している三谷氏。
では、その作品完成のためのピースになろう、とちょっと久しぶりに映画館へ行ってきた。


※この先絶賛上映中の映画について多少のネタバレを含みます。作品の完成の一翼を担う予定の方は、ご注意ください。



物語の舞台は老舗の高級ホテル「HOTEL AVANTI」、その大晦日のカウントダウンパーティーまであと2時間10分。そこから年が明ける瞬間まで、リアルタイムに物語は進んでいく。

ホテルで働く従業員たちとそこに訪れるさまざまな人々、例えば夢を諦めて仕事を辞め田舎へ帰ろうとする青年、例えば汚職で人生がけっぷちの国会議員、例えば偶然客としてホテルを訪れた元妻に見栄をはり嘘をついてしまう副支配人がそれぞれにこの映画の主人公だ。
それぞれの置かれた状況や設定が、スピーディーに展開するストーリーの中で分かりやすくこちらに伝わり、そのキャラクタたちの関係性のねじれが笑いを産んでいく。

三谷作品の登場人物たちはそれぞれに熱い思いや、大きな野望や、些細な願いを持って、一生懸命に生きている。コメディは人生賛歌だ、とでも言いたげに泥臭くも汗臭くも必死になって困難を乗り越えようとする姿が描かれる。そしてその光景は、ときとしてとても笑える。そこにはそこはかとない大きな優しさがある。

実際、全ては笑いに包まれているものの、この物語の中で何人もの人物が『死と再生』という人生の起伏を体験している。
ベルボーイが、捨てたはずの大切なものを奇跡のような偶然から再び手にして夜空に叫び声を上げるシーンはとても胸を焦がすし、汚職国会議員が死の淵から1mmだけ生に戻った瞬間など――それはとても笑えるシーンでもあるのだけど――軽く涙腺の緩む想いが心に満ちる。

もちろん総支配人による全編をつらぬくくだらない繰り返しの笑い(いわゆる天丼)などなど無条件に面白い演出も冴えに冴えている。

そんな質の高い素敵なコメディを上映している映画館はとてもあたたかい空気が漂っている。同じタイミングで笑い、ときには一部の人しか気付かない笑いもありつつ、テンポよく進む物語を大勢で同時に駆け抜ける快感。

すでに釣りバカ日誌シリーズ等で、長年日本の映画でもっとも観客に笑顔を提供している俳優、西田敏行の登場シーンなどで無条件に笑いが起こる(特に中高年のお客さん)ことに象徴的なように、この名俳優がこんな役を、もしくはこんなセリフを、というような驚きや楽しみはオールスターキャストムービーならではだし、そのときに重厚な演技はこの夢のようなコメディにリアリティのカケラとその反動によってより増幅される笑いを提供してくれている。

これまでの三谷作品と少し違うのは大きく主となる軸がないことだ。
『王様のレストラン』や『ラジオの時間』にはみんなが力を合わせてやるべきことがあった。同じ閉じた空間での群像劇でありながら、この作品はそれぞれのキャラクタは自分以外のキャラクタの物語に気付くことなく、偶然に作用しあいながらいくつかのドラマを産み出していく。
その緻密に構成された脚本は無数の名作を世に出した三谷幸喜の作品の中でも特別なものなんじゃないかと思う。


とにかく楽しく笑って物語のスピードに身を任せているだけで、びっくりするくらいの満足感が得られる極上のコメディ映画。三谷監督作品としては間違いなく今までで最高傑作だと思う。
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by kngordinaries | 2006-01-18 01:56 | 映画、ドラマ


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