ねじの回転 FEBRUARY MOMENT 恩田陸
この作家の作品を始めて読んだのは「夜のピクニック」だった。じんわりとした感動と青春の風景を切り取ったような瑞々しい世界とそのきれいな文章が素晴らしかった。

次に読んだ「ドミノ」で印象は一変する。
様々な状況と登場人物が配置され、まさにドミノ倒しのように連綿と連なる抱腹絶倒のパニックコメディは、その構成力の巧みさは「夜のピクニック」と共通しているものの、かなり趣きの異なるおもしろさで魅了してくれた。

恩田陸とは一体どんな作家なのか、それが気になって雑誌の恩田陸特集なんかも眺めてみたけれど、わりと多作でジャンルレスでそのどれもが高水準、ということしかわからなかった。
きっと職業作家としての努力を惜しまず、もともとが本の虫というような人なんだろうと想像。

本作「ねじの回転」は文庫本の解説を先に読んで分かっていたのだけど、「直球ど真ん中、ガチガチの、バリバリの、」「どこから見ても堂々たるSF」ということらしい。
SFというとアーサー・クラークくらいしか思い浮かばない人間としてはバリバリのSFといわれるとちょっと身構えてしまうところがあるけれど、ずっと興味のあるジャンルでもあった。

冒頭、monologueやfragmentという章立てでいくつかの時代設定や人物設定の分からない挿話がまずこちらを撹乱させつつ引きこませる。とてもSF的なわくわく感なのかもしれない。
その後、ようやく始まる本編はのっけから凄い展開を見せつけていく。
舞台は「二・二六事件」だ。この4日間に渡る出来事が史実どおりに行われるよう「再生」を繰り返し、まともなかたちで「確定」させようとするタイムトラベルもの。

実際の歴史の登場人物数人がその計画に加担し、史実どおりに行動する姿と、それを見守り「確定」か「不一致」かをチェックする未来の人々の姿が、交互に描かれ、その中で時間を移動すること、歴史に介入すること、等々のややこしい設定が説明されていく。
しかし、SFにありがちな小難しい科学的用語の登場はほぼなく、「シンデレラの靴」や「懐中連絡機」「シールド」といった存在ですっきりとわかりやすくこの物語世界のルールが理解できる。

そうなったらあとは怒涛の展開だ。時代を生きるものの思惑、未来を生きるものの迷い、正体の分からないハッカーの存在、明らかに史実と異なるのに「不一致」と判定しない「シンデレラの靴」の不思議、蔓延する病、謎の暗殺者、といったものが複雑にからまりスピーディーに緊張感ある状況を連発し、一瞬も目が離せない。
これはおもしろい!とページをめくる手が止らなくなる。

SFはおもしろい。
なんといっても未知の世界というものは魅力的だし、ありえない状況をいくらでも作り出せるわけだ。しかしそこにはある程度そこにのめりこませるだけの説得力と設定の理論的な説明がほしい。それさえあって荒唐無稽でぶっとんだ物語が展開されるのであれば、それは夢中になるしかない。
しかも優れたSFはその未知の世界を楽しみたい、という気持ちのなかにある人間の無限大の探究心や好奇心を肯定しつつ、それが一歩間違うととてつもなく危険であることを、横っ面をはたいて教えてくれる。そのビリビリとしびれるような痛みが、ただ夢物語に没頭するファンタジーよりもすっきりとしたクリアな心地いい読後感を与えてくれるわけだ。

「二・二六事件」を扱ったタイムトラベルものというと宮部みゆきの「蒲生邸事件」という傑作がある。あれは直接的に史実を描いているわけではないし、ドSFというよりはSFミステリであるけれど、どちらも甲乙つけがたいくらいおもしろい作品だった。

これからも恩田陸作品はどんどん読んでいきたいと思った。はずれなし。

あと「二・二六事件」というものにもちょっと興味が湧いた。高々70年ちょっと前に日本で起こったクーデーター。若者たちがこの国を変えようと決起し、一時は本当に国を揺るがし、結局鎮圧された事件。物語の中でもここが日本の、世界の歴史の転換点の重要な一つとして描かれている。
機会があったらその辺のことをもうちょっと知ってみたいと思った。
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by kngordinaries | 2006-02-12 18:54 | 小説


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