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灰色のピーターパン 池袋ウエストゲートパークⅥ 石田衣良
灰色くらいが、ちょうどいい・・・
ちょっとは汚れて生きてみよう!

なんだか寅さんシリーズや、こち亀のような老舗感がちょっと漂いだしたIWGPシリーズ第6弾は、タイトルからしてずいぶんとベタな印象を受ける。
初期のクールでドライな重くないハードボイルド小説といった色合いはだんだんと少なくなり、そのぶん人情やユーモアが全体を支配してきているような印象。

とはいえセンテンスを短く区切り、ざっくばらんに、少し気取った語り口で、テンポよく言葉を転がす一人称のマコト節は健在だ。
元コピーライターである作者の紡ぐ言葉は、その一つ一つのフォルムが小粋で、妙に心にひっかかる。C級コピーライターとして有名な糸井重里氏もそうだけれど、短い言葉ひとつを商品にしてきた人のセンスというのは一体どんなことになってるのか、といつも不思議に思う。言葉は恐い。
「おれだってわからない。いっしょに考えてみよう」

盗撮映像を売りさばく小学生が登場する表題作「灰色のピーターパン」に続いて収録されている短編「野獣とリユニオン」のテーマに引き込まれた。このシリーズでも何度となく描かれている「罪と罰」について、それのみにフォーカスを絞った力作だ。
加害者によって人生を大きく狂わされ、絶望を味わった被害者は、加害者を許せるか。その加害者が別の物語の中では、悲劇の被害者だったりしたら、どうだろう。
強く突きつけられる難しい命題と、少し出来すぎた美しいこのフィクションの結末に、現実に生きる読者は何を思うだろう。
そのまま、なんとかその場でステイしろ。むこう側に落ちるんじゃない。

おれは立派な人間というのがどんなものか、そのときに教えられたのだと思う。人間が野獣に対するとき、どんな態度がもっとも人間的なのか。憎しみを返すために棒でたたくか。目を見て話をするか。実はそれが、あんた自身をケダモノと人間に分ける細かくかすかな線なのだ。

なにかを芯から理解するには、おれたちにはストーリーが必要なのだ。

これは、今の時代のどんな小さなことにも、もちろん地球規模の大きなことにも、大いに関係する大きな問いかけだ。
僕は決してこの小説が、その問に対して特に素晴らしい解答を導き出せているとは思わないけれど、この小説を読むたくさんの読み手に向けて、あくまで身近で分かりやすい具体例を用いて、当事者感覚でその問いかけを認識させることに成功していると思うし、それはエンタテインメント小説として素晴らしい機能の仕方だとも思う。

とりあえず今の時代の問題意識を存分に秘めながら、携帯片手に池袋のストリートを駆けるトラブルシューター真島マコトの物語の続きが、まだまだ気になる人気シリーズ第6弾。
by kngordinaries | 2006-07-28 00:33 | 小説


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