39108 吉井和哉
吉井和哉のソロとしては3枚目、”吉井和哉"名義では初のアルバムとなる「39108」は、これまでの”YOSHIILOVINSON”名義の「at the BLACK HOLE」「WHITE ROOM」(以下、黒白)を踏まえた集大成的なロック・アルバムとなった。

吉井以外全ての演奏はアメリカ人ミュージシャンが手がけている。ソリッドでドライなサウンドの強力なグルーヴ感、シンプルにまとまっているのに凶暴なビートが中毒性を持って聴き手の耳を刺激してやまない。
それでいてとてもクールな聴き心地でやかましくない、そんな高性能なロックンロールサウンドが素晴らしい。

言葉はさらに削ぎ落とされ、生きることや愛することというシンプルの極地のようなテーマしかなくなり、だからこそそこにはバランスよくユーモアとエロスもこれまでより健全な毒として配置されていて、とても抜けのいい爽快な仕上がりになっている。
黒白で深く深く徹底して向き合っていた自己の煩悩(39108の108は煩悩の数を表している)、そのテーマを終えたりやめたりしたわけではなく、どこまでも追求した結果として清々しくフラットな心情が浮かび上がってきたのだと思う。それはとても感動的な大きな物語を感じさせる。
どうでもいいことが
大事なことなんだ
BEFORE と AFTER の間で
立ち止まってみるマイウェイ
                             人それぞれのマイウェイ

アコギがサウンドの中心となるパーソナルな雰囲気の1曲目が象徴的なように、高性能なバンドサウンドに乗っているものの歌そのものは、アコースティックでの弾語りも似合いそうなエモーショナルな美しいメロディーのものが多い。吉井の歌唱も歌う喜びを感じさせる気持ちのいいものになっている。
LONELYALL BY LOVEのメロディーが持つダイナミズムは素晴らしい。
顔の皮剥いでみな
骸骨は黄金さ
                            黄金バッド

オレは足りない 何か足りない
生まれつき毛並みはベルベット
お前が欲しい 今すぐ欲しい
獣の匂い嗅がせてエヴリナイト

I WANT YOU I NEED YOU
I WANT YOU I NEED YOU
                    I WANT YOU I NEED YOU

黒白はディープな感触を持つ作品だった。しかしその収録曲の音楽的レンジは幅広く、アグレッシブなロックチューンにも素晴らしいものが多くあったけれど、今作ではこれまでで一番華美のないシンプルなサウンドで、しかしこれまでの作品にはなかった暴力性と破壊力を持ったロックチューンがいくつかある。
これはソロ吉井のキャリアの一つの極地といえるだろう。

そして”吉井和哉”名義として初のシングルともなったBEAUTIFULから恋の花、そしてBELIEVEへと続くラスト3曲で、聴き手は吉井自身の先へ進んで行こうとする強い決意を確かな実感として感じることになる。
バンド時代からの長いキャリアにがんじがらめになることなく、きちんと自身の表現を更新し続けてきた。その結果としてたどり着いた光景がここにはあるからだ。
その穏やかで静謐な世界に理屈抜きに揺さぶられ、ハッと何か大切なことに気付かされる。

そんな大きな感動を感じつつ、さらにこのミュージシャンの今後の更なる展望にまでおおいなる期待を抱きもする。一言で言えば、出来すぎた作品だ。

そしてこの作品が厄介なのは、このミュージシャンとして飛躍の傑作を作り上げた直後、まだ音源が世に出る前に、パフォーマーとしての吉井和哉が大きな変化をしてしまったことだった。
それは今夏の各地のロックフェスでのライブで起きたことだった。
稀代のロックスターが、久々にその歩を進める決意を見せたそのライブの熱のこもったモードと、このパーソナルな表現を突き詰めた結晶のような作品は、同じ一人の人間のものであるだけにある程度重なり合うものの、少しの時系列の差も相まって、ある程度違和感もあり、ファンとしては少々戸惑いを感じる部分もあるものとなった。

吉井はこのアルバムを持ってこの秋から年末にかけて「THANK YOU YOSHII KAZUYA」と題した全国ホールツアーを行う。そこでいったいどんなパフォーマンスをするのか、今から期待が高まる。
どんな変化をはたしていようと、聴き手にとってそれは幸福なものであるだろう、と気軽に信頼することのできる40代のロック・ミュージシャンはそうはいないんではないだろうか。

離れてもそばにいても
変わらない想いがある
人は皆 星になる そのわけは
その時わかる

I BELIEVE IN ME
風の中 花吹雪 舞うように
思い出が満開
I BELIEVE IN ME 振り向いても
後ろには通り過ぎた景色があるだけさ

I BELIEVE IN ME
どうにもならない
とは思わずに
今を駆け抜けたい
                                   BELIEVE

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by kngordinaries | 2006-10-27 01:59 | 音楽


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