STAN I KNOW WHAT YOU DON'T KNOW TOUR 池下CLUB UP-SET
STANのワンマンライブが名古屋で観られる日がくるなんて、半年前には全然思ってもいなかったことだったし、実際その日がきてみても一体どうなっちゃうのだろうという変な不安とありあまる期待がありつつ、現実味が薄い感じがしていた。

池下UP-SETは今年初めて行ったハコだけれどもう3回目。前回は個人的に衝撃の初STANだったことを思うと少々感慨深い。
すでに開場されていたのですっと中に入る。まばらな人。この時点で20人前後、最終的にも40人はいかなかったんじゃないだろうか。これが今のSTANの名古屋での集客力だった。

凄く聴いたことがあったり、なんとなく聴いたことがあったりするロック・レジェンド的な選曲のBGMに乗ることもできず、なんだかそわそわした気分で開演を待った。

※この先ツアー中の公演についてネタバレがあります。ご注意ください
※セットリストはあまり信用がおけません



開演時間を過ぎ、客電が落ちる。環境音楽とか、イージーリスニングとか呼ばれるような感じの穏やかで優しいBGMが流れること数分。暗がりの中を3人がゆっくりとステージへ。拍手が巻き起こる。

SEの穏やかなムードを1曲目STAN'S HOUSEの最初の1音の圧力で吹き飛ばす。とんでもない熱量の放射、一気に目の醒めるようなライブ空間が広がっていく。暴力的な音が場を支配する。
矢継ぎ早にULTRAMAGNETICSTANSのバッキバキのイントロがなると大きな歓声が上がる。いつもどおり人数は少ないけれど、ワンマンということもあって関東からの遠征組もいるのか、最前に陣取る熱狂的なファンが多めで、のっけからフロアの熱も高め。
そしてDolphin Dance。前2曲のめくるめくグルーヴに加えてこのダイナミックでキャッチーで強靭なメロディ、ほんとにとんでもないバンドだ。
49のドラムは激しくしかし的確に緊張感のあるリズムを刻み、今西は1曲目から完全に自分ワールドで踊り狂っていた。そんななか、KYGはベロア地の長袖のジップアップを着込む、といういでたちのせいもあってか、なんとなくいつも以上に冷め切った印象。ULTRA~なんかはいつもフリーキーな印象なのだけど、今回はずいぶんとクール。しかしギターはバッキバキで歌はそのぶんきっちりと音に乗せて歌い上げていて気持ちがいい。

このへんでの簡単な挨拶もなんだかたどたどしく小さめの声でボソッとつぶやく感じだったと思う。夏のイベントあたりからの自信とやんちゃさに溢れた印象とはまた違う。演奏は素晴らしいだけにちょっとこちらが戸惑う感じだ。

shuffle offは今回ライブで初めて聴けたと思う。ミディアムテンポの音源より少々テンポを上げ、ラウドになった印象。めちゃくちゃにノリが気持ちよくメロディとリズムがガッチリ組み合った珠玉のロックチューン。
ただでさえウザイこの世界に乾杯!

確かなことなど 何一つないよ コワがってるのかい?
大分前から 大分前から 俺は知ってるよ

さらにアルバムの曲順でNot Rock, But Roll。STANの曲はコンパクトな構成の中にもドラムで始まりギターが重なりベースが重なる、というイントロで音が順々に形作られていく曲が多く、ドラムが鳴った瞬間に心が躍る。特にこの曲のそこからの見事な一筆書きのような、ポップでモダンでダンサブルな構成は圧巻。
舞い上がりそっと流れる髪の毛に
ふれたいよ 風のフリをして
何も思わずに
君をやればいい
「ここからちょっと2ndからの曲をやります」
とこれまた丁寧な言葉使い(笑)でつぶやくような声でのKYGのMCのあとでJ.D.。KYGがイントロのギターを長めに引っ張り、素手でシンバルをジャーン!と鳴らして曲がスタート。スッカスカでいかしたサウンドとユーモアと毒の詰まった歌が素晴らしい、大名曲。この曲、音源よりテンポ上げてる曲が多い中でも特にテンポアップしている気がするんだけど、個人的には音源より遅くして脱力的サウンドで聴いてみたい気も。
さらに悲しい男。1分半しかない曲中のメリハリある構成が気持ちいいミディアムチューン。
そして立て続けにLove You、2ndからのしかも曲順どおりの並びが音源をヘビロテしていた身としてはもの凄く嬉しい。
このLove Youがとても素晴らしかった。演奏は迫力を増し、KYGの歌う姿もここにきて一気にエモーショナルになっていた。
この曲だったか、今西がドラムセット用の段差に腰掛けて体育座りのような格好で演奏。というか今西、ライブ全編に渡って、ロボットダンスチックだったり、弾いてないとき廻ってたり応援団っぽい動きしてたり、いつもどおりステージから消えるくらい左右に飛び回ったり、多分今西の観察だけでもチケット代の価値があった、と本気で言えるくらい面白かった。

今まで観たライブでは恐らく初めてこのへんのMCは49が。
「わざわざ名古屋まで来てくれて、ありがとうございます(遠征組に向けて?)」
「ここにいるのはSTANを観にきてる人たちなんですよね。こっからディープに、ずぶずぶに、やってくんでよろしく」
というような風に煽ってる横で、KYGはようやくジップアップを脱ぎ、NEVER MINDという言葉が踊るSEX PISTOLSのバンドT姿に。しかし体の線が細い。細すぎる。
ここ以外でもちょこちょこ49MCがあったけれど、あれだけ強力な演奏をして結構平静な声を出すとこが凄い。
「あんま喋ると、あの、また喋りすぎとか言われるから・・・」
とこれまたボソッとした語尾が消え行く弱いツッコミを49に入れるKYG。ジップアップの件からも風邪気味なのかと推測もできたけれど、パフォーマンスにそんな感じはなかったし、緊張があるようにも見えないのでほんと不思議な感じだった。しかもSTANに限って喋りすぎということはないわけで。

ここからディープに、という49の言葉も納得のダルい男で怒涛の後半がスタート。
これまたスッカスカのアンサンブルが気持ちいいミディアムチューン。僕は、今ここに生きる青年のリアルな感情・苦悩をそのまんま音楽にゴロンと変換する才能がとんでもなく秀でているのがこのバンドだ、と思っているのだけれど、ここで生で聴くKYGの「マジダリー!」や「あーめんどくせぇー!」のシャウトはほんとに総毛立つほどビビッドに感情をぶつけてきて、その重みにクラクラしてしまった。狂ったように、しかし計算づくでシャウトするKYGは神がかっていた。
さらにAUSCHWITZ考えすぎな男とSTANのディープサイド、というか素のKYGと言いたくなるリアルでダークな世界を立て続けに。この辺のKYGの全てをあざ笑うような、打ちひしがれて青ざめているような、悲しげに微笑んでいるような、複雑に感情が爆発した歌いっぷりが印象に残った。
「次はI HATE YOUという曲をやります」
といってI HATE YOU。なかなかアップめのカッコいい曲だと思って聴き始めると、「I Know」にも通じるようなKYGお得意の悪意を撒き散らす歌詞に思わず笑ってしまった。初めて聴いたのに最高だった。即効性抜群。
さらに伸び伸びとしたメロディーとどこまでも切ない歌詞が印象的な永遠の詩
そして少しの間をおき、静寂の中ALL BLUESのしめやかなイントロが鳴る。
STANの中でも特に社会的メッセージの強いこの楽曲の重力は凄い。静かなイントロから一気に爆発するサウンドに身動き一つできず引き込まれる。不穏なメロディーに乗せKYGの怒っているのか諦めているのか悲しんでいるのか分からない複雑で、でもとてもエモーショナルな歌が心の奥深くのどこまでも突き刺さった。
「木陰で泣いている 彼女は両目がない」という印象的な歌詞の後を「だけど無視しよう どうせ見えない」と歌詞を歌い変えていた。胸が締め付けられる。

この辺で少し間があった気がする。基本的に曲の間はKYGが水分補給したり、チューニングを黙々とやる中、49がちょっと音を出したりして繋いでいたような。

イントロで歓声が上がり、JAPANISTANへ。今の世界の現状への漠然とした、しかし確かに感じられる巨大な不安感・絶望感を歌ったミディアムチューン。「恐いよ 恐いよ」の部分をメロディを大きく外して叫んでいた。別にステージ上で暴れまわるわけでもモノを壊しているわけでもないのに、鬼気迫るものがあった。
そして愛に逆らうな、さらにはあゆでディープな雰囲気をガラッと変える極上のポップチューンを披露。この振れ幅、ほんと凄い。
ここで49と今西によるインプロ。これがめちゃくちゃに気持ちよく、後半KYGも加わって素晴らしい盛り上がりをみせていた。
そして満を持したように鳴らしたイントロはTHE SONG。どこまでも心地いいリフ、躍動的で伸びやかなメロディ、そして驚くほどシンプルでまっすぐなメッセージ。なんだかんだ言って、名曲だらけのこのバンドの楽曲の中でもこの曲は際立ったものがあると思う。1曲の中にアイデアとセンスがギュウギュウに詰まっている。
大サビ前、KYGが「もっと来い!もっと来い!」と苛立つように叫んでいた。
激しいのに柔らかく穏やかな印象の超名曲に浸っていると、唐突に突き刺すようなギターのイントロがその空気をぶち破る。本編ラストチューンはI Know。ファンキーで毒々しいロックチューンが最高に甘美だ。しかし耳を劈くような爆音なのにすっきりと耳心地がいい。STAN独特のバランス感覚。
どこまでも衝撃的な瞬間の連続で、一瞬のようにも感じられたライブ本編はここで終了。

初めてこれほど長く彼らの生の音を聴き続けたわけだけど、とんでもない名曲ばかりを聴き続けた中でやっぱり「THE SONG」と「I Know」の2曲が際立って感じられた。この2曲の間の飛距離となぜか両者に等しくあるポップ感がこのバンドの強みだと思う。

熱いアンコールの拍手は、STANコール、KYGコール、今西コール(一番凄かった)、49コールと最前の熱いファンに支えられて長く続き、ようやくメンバーが再びステージへ。
「アンコールありがとうございます」
とKYG。丁寧だ。
しばらくギターの音を確かめておもむろにTシャツの裾をつかみ、
「ピストルズ!」
観客失笑。そして
「次の曲はツェッペリンのカバーをやろうと思います。カバーつっても、俺ら全然変えちゃってるから・・」
と語り始めるKYG。
「カバーっていうか・・・ブルースなんだけど。ブルースっていうのはもう何十年も前から歌い継がれてる曲とかがあって。誰が作ったか分かんない曲、モチーフがあって、それをいろんな人がそのモチーフで曲を作って受け継がれてきてるんですよね」
いったいこれは何の講座なんだろう、と思うような口上。しかし小さめの声で醒めた目で、真剣な表情で語るKYG。
「In My Time Of Dyingっていう、死ぬ間際の気持ち、みたいなやつなんだけど。ツェッペリン以外にもいろんな偉大なアーティストがカバーしてきていて・・・その流れの中にSTANも加わろうと思います」
もっと長く話していたと思うけれど、大体内容的にはこんなことを、このライブの中で一番時間を割いてKYGは語った。
そして披露されたIn My Time Of Dyingというらしい曲。静かな歌始まりの出だしから一気に爆発したり流麗なメロがきたり、くるくると表情を変えるドラマチックな曲だった。今までになく陶酔しきったような表情のむせぶような切ない歌声から全てを拒むようなシャウトまで、振り切るだけ振り切ったような歌いっぷりのKYG。
STANの演奏で聴くSTAN以外の曲を聴いていて思ったことは2つ。一つはKYGの声は英語がとんでもなく似合わないということ。もう一つは、僕はSTANの最高な曲が好きでライブや音源を楽しみにしているつもりでいたけれど、実は彼らの生き様というか世界への戦闘体勢が一番興味をひく部分だったんじゃないか、ということ。これだけのライブを披露してきてさらにドラマチックにグルーヴたっぷりにリズムを叩き出す49と今西、タガが外れたように歌い上げギターを掻き毟るKYG、その光景が観たいのかもしれない。
ラストチューンはYOUNG&FINE。陽性のグルーヴが心地いいポップチューン。そういえばこの曲はモダン・ルネッサンス(KYGのブログ)での人気投票で1位だったな。ここで披露とはなんか妙に律儀じゃないか。確かに名曲だけど。

客電が付いても、しばらくアンコールの拍手は続いたけれど、結局ここでライブは終了。初STANワンマンは幕を閉じた。


さてさて、一体このライブはどんなライブだったんだろう。正直ほんとに分からない。最高に楽しかったわけじゃないけど、凄い気持ちよかった。どこまでも熱かったわけじゃ全然ないけど、全てが衝撃的だった。なんかもう凄いもの観た感はあったんだけども。

まず初ワンマンというところでペース配分とかそのへんが気になるところだったのだけど、バンドはずっともの凄い集中力で演奏していつつ、当然ながらいつものイベントライブより曲間の時間が空き気味だったり、こちらにはあまり感じさせないながらも上手くやっていたのだと思う。
でなきゃ最初から最後まであんな素晴らしいことにはならない。

そして一番気になったのは、KYGのたたずまいなのだけど、体調不良やもしくは観客の少なさへの苛立ち的なものかも、という勝手な憶測は置いておいても、その結果として異常な楽曲への集中力と慎重でありつつも恐ろしくぶっ飛んだパフォーマンスにそれが結実していたのだから、観客としては申し分なかった。
セットリストとしては、ある程度キャッチーにアップめでスタートして、ズブズブとディープな世界へ引き込みつつまた後半盛り上げていく展開、そしてアンコールではカバーというサプライズも。と書くとめちゃくちゃオーソドックスな素敵ワンマンじゃないか、と思えるけど全然そうじゃなかったのは上述のとおり。

勘違いしてました。
STANは半歩先くらいにいて、ほぼ並んで歩いてるような距離感かと思ってたら2歩半くらいは先にいて、矢面に立って闘っていたのだった。
芯の芯までロック純度100%のロック・バンドなんだった。
得体の知れないモンスターのようだった。

間違いなく今の彼らはシーンに出て行こうと、オープンな体制を取ろうと、躍起になって努力しているだろうけれど、このワンマンで観られたのは、それ以上に自らの荒れ狂うような激しい表現衝動に忠実なロック・バンドだった。

ぶっちゃけた話、こんなライブをしていても彼らを取り巻く状況が一気に大きくなっていくことはまずないと思う。もっと会場全体がシンガロングできたり手拍子を煽ったほうがいいのかもしれないし、タガが外れたような圧倒的なパフォーマンスは盛り上がりどころ1箇所くらいでほどほどに抑えたほうがいいのかもしれない。溢れるほどポップな曲たちを効果的にメインに据えた構成にしたほうがより多くの人が受け入れやすいのかもしれない。
けれども、個人的にはこんなライブに恐ろしく心を動かされたし、震えたし、熱くなった。あともう一度だけでもいいからこんなライブをまた観たいな、と思った。観られるだろうか。
もしかしてそんな気持ちの観客が僕一人だったとしても、たった一人にでもこれだけ強く心に残るライブなのだから、これはとても正しく素晴らしいライブだったんだと思う。まあもちろん一人なわけはなく、あの会場にいた少ない人数の内の大半がそういう想いであったんだろうけれど。

とにかくSTANの初めてのワンマンライブは終わった。ここが始まりだと思うようなライブは終わった。

事実としてはたったそれだけのことだ。
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by kngordinaries | 2006-12-07 00:45 | ライブ


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