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親知らず抜歯から2時間半
「見えた?」
押し殺したような囁きが僕の耳に飛び込んできた。


・・・・・・ようやく麻酔が切れてきた。出血はまだ少しあるようだけれど、病院でもらったガーゼはもう尽きた。不安。

痛みが少しづつ出てきている。用心して先回りで痛み止めを飲んだけどすぐに早すぎたことを後悔。

意外とあっさりした手術だった。
普通の診療のときと変わらない椅子に座り、違いといえば多少念入りな消毒があっただけだ。ただ予想外に歯の生え方がひねくれていたらしく、かなりでかいペンチのようなものでぐいぐいとやられ続けた。あんまり押されて後半あごが外れそうだった。
麻酔が良く効いていたので抜歯自体の痛みはゼロだったけれど、力づくでやったときに手で押さえられた抜くのと反対側の唇が痛かった。

そんなことはいいとして一つ記しておきたいことがあった。
診療用の椅子の左手の術者がいない側に150cmくらいの高さのついたてがあったのだけど、その向こう側からひょっこり二つの頭が出ていて、手術開始からこっちをじっと見つめていた。
めちゃめちゃ気になった。こっちはちょっと緊張しているし麻酔かかってるし口をあんぐり開けてでっかいペンチつっこまれているのだ。余裕のない状態だ。
なんだかいやな気分のまま手術は進行。
途中で気づいた。どうやら2人は研修生のようなものらしい。手術が後半に差し掛かったころには、いつのまにかついたての手前まで来ていて、僕の口の中を(おそらく出血も凄かっただろう)覗き込むようにして観察していた。
僕とそう年の変わらぬ茶髪と黒髪の女性2人だった。茶が積極的に僕の目線に入り込んできて口内を観察し始めると黒が興味しんしんといった様子で茶にささやいた。

「見えた?」

おいおいおい、と思った。聴こえてるよ!といってやりたかったけれど、もちろんまさに抜歯中のわたくしはぴくりとも動けない状態。というか余裕ゼロだった。

術後、気づいたときには彼女達はいなかった。人の口内を見るだけ見てなんの挨拶もない。当たり前のことだろうけど、なんだか腑に落ちない出来事だった。

人生には一生忘れられないフレーズがいくつか存在する。そこまで覚えていたく無いけれど、しばらくは頭から離れなそうな一言だった。
by kngordinaries | 2004-10-23 13:46 | 生活


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