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12人の優しい日本人
10年以上も前に観たときの記憶が随分と鮮烈で、いつかもう一度観たいと思っていた作品だった。

確か、テレビで深夜に放送されていたのだと思う。
この作品に対して何の前知識もなかったけれど、今にもスイッチを消して寝ようかと思っていたところだったのだけど、結局眠い目をこすりこすり最後まで観てしまった。
「古畑任三郎」とどちらが先に出会っていたかはよく覚えていないけれど、この両作品が三谷幸喜という劇作家に興味を抱く要因になったことは間違いない。

もしも日本に陪審員制度があったら、という未来を予見するような公開当時としては架空の設定で繰り広げられる、12人の陪審員によるとある事件の判決を下すための討論の一部始終。それをそのまま舞台演劇にした戯曲の映画化作品。
三谷幸喜お得意のワンシチュエーションでほぼリアルタイム進行のスピーディーかつ予測不可能なスリルは、とても心地よく一気に見せる。登場人物全員に必ずドラマがあり、必ずスポットを浴びるシーンがある、という彼の作品らしさが分かりやすく出ている作品だと思う。

僕は映画を観るというのは結構エネルギーのいることだと思っていて、そんなに何回も同じ映画を観かえすことはまずない。
だから、10年ぶりに観返すこの作品から何を感じるかはちょっと楽しみなことだった。もしかしたら全然面白く感じなかったりするのでは、とか。

はたしてそれは、ちょっと驚きの結果が出た。
面白い。それは間違いない。息もつかせぬ展開。細やかな人物描写と、そこはかとなかったり、ベタだったり、滲み出たり、さまざまな形で作品から溢れ出すユーモアとペーソス。
それは10年前と変わらない、変わらず面白い。

だけど、それ共に感じたのは、人が人を裁くこととその過程、それらの光景の裏側からゆらゆらとたちあがってくる大いなる疑問符。
コメディであるがゆえの多少の誇張はあろうけれど、この12人はリアルな今の社会の縮図といえる。全く相容れない価値観を持ち、長いものに巻かれやすかったり、ひねくれてみたり、ぶち壊したくなったり、自分本位だったり、思考停止したり、論理を優先したり、温情だけで物事を判断したり、ごちゃごちゃに捻じれ交わり絡まりながら、すれ違いながら、何とかその妥協点、落としどころを探っていく、その様。
日本人特有のコミュニケーションのかたち、民主主義的な討論による決定、そんなテーマも見え隠れする。

つくづく三谷幸喜は巨大な才能だと思う。複雑な人間模様をこれだけすっきりと分かりやすく、かつ面白く、深い洞察を持って描ける人を他に知らない。
それでいて、法廷劇としての手に汗握るサスペンスや最後のミステリ的大オチと人情劇的大オチを畳み掛けるカタルシスも巧妙な伏線を配して大いに魅せてくれるわけだ。
文句のつけようがない。

深みのある極上の喜劇。またきっと10年後に観たくなりそうな作品だ。


近々、初めて三谷幸喜の舞台を観に行く予定なのだけど、この作品を観返して、一層期待が高まりました。
「コンフィダント・絆」、楽しみだ。
by kngordinaries | 2007-05-08 02:35 | 映画、ドラマ


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