陽気なギャングが地球を回す 伊坂幸太郎
二人組の銀行強盗はあまり好ましくない。二人で顔を突き合わせていれば、いずれどちらかが癇癪を起こすに決まっている。縁起も悪い。たとえば、ブッチとサンダンスは銃を持った保安官たちに包囲されたし、トムとジェリーは仲が良くても喧嘩する。
三人組はそれに比べれば悪くない。三本の矢。文殊の知恵。悪くないが、最適でもない。三角形は安定しているが、逆さにするとアンバランスだ。
それに、三人乗りの車はあまり見かけない。逃走車に三人乗るのも四人乗るのも同じならば、四人のほうが良い。五人だと窮屈だ。
というわけで銀行強盗は四人いる。


あまりに素晴らしすぎるこの作品の冒頭の文章を思わず全文引用してしまった。

ここにこの作品の全てがある。

さらっと読むとなんとなく納得する論だけど、車は大体4人乗りだ、ということ以外なにも言っていない。銀行強盗は四人である必然はどこにもない。

二人組と三人組についての考察なんてまったく文の要旨に絡んでいない。というかそもそもこの文章に伝えたいことなんてない。

矢継ぎばやに出される突拍子もなくリズミカルなテンポの文章が実にユーモラスにシニカルに、何も語らずに疾走して描き出すシュプールのその美しさは、もう見惚れるしかない。その感じが小説のラストまでずっと続くのだ。

そんな数時間の読書体験なんて滅多にあるもんじゃない。

銀行強盗四人が主人公のクライムコメディ。
他人の嘘を見抜くリーダー、正確な体内時計を持つ運転手、スリの達人、出任せと演説の達人、というキャラクタ全員が変わり者でとても魅力的。この四人が冒頭行うその手馴れた犯行の最中の会話だけ延々と続く小説が読みたくなるくらい。

実際、物語が転がりだす犯行後の逃走シーンに至るまでに小説はその3割近くを要している。それが実に楽しいのだけど、そこからの展開は会話シーンのおもしろさと同じくスピーディでスマートで、巧みなプロットが駆使されていて重い意味性はなくとも実に豊饒だ。

これは楽しませることに主題をおいている小説だ。けれどもエンタメ小説というカテゴリに置くにはそのサービス精神は過剰すぎる気もする。
ゴテゴテに上質に塗り固められた城壁の中にお城はなかった、という肩透かし。それは一部の洒落た映画にもみられる精神で、そこには作り手・書き手の王道に対する強烈なカウンタ意識と自らのセンスへの絶大な自信がある、ような気がする。

そしてそれを多くの受け手が心底楽しんで受け入れることはとても少ないのだけど、だからこそ貴重にして幸福な作品になる。

で、この文章も何が言いたいかというと、わりと空洞。
一言で言えば、

これだけ楽しい作品と作家に出会えたことに感謝、という感じ。


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僕は彼らから見たら「スピッツ」だろうか。「シェパード」だろうか。「ゴールデンレトリーバー」はないかな。
って銀行員じゃないし関係ないか。
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by kngordinaries | 2005-09-03 02:16 | 小説


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