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三谷幸喜のありふれた生活 4 冷や汗の向こう側 三谷幸喜
えーと、揃ってたんだっけ、と本棚を見やると1だけなかった。なんだか少し気持ちが悪い。

朝日新聞の人気連載エッセイをまとめた「三谷幸喜のありふれた生活」シリーズの第4弾。
毎回毎回、次はいつ出るかなー、と楽しみにしていて、出たらすぐに買って、そしてすぐに読みきってしまう。内容が薄いから、ではなくておもしろいからです。

今回は「冷や汗の向こう側」との副題どおりハプニングが多いけれど(毎回のことだけど)、第3弾と同じく大河ドラマ「新撰組」に関わることが多い。おもしろおかしい日常を綴る中でのそこにかける筆者の想いの熱さは相当なもので、この作品の台本・キャラクタ・役者・現場・スタッフに対する愛情のこもった文章が、とても温かい。1年に渡るドラマなので台本執筆は1年ちょっとかかったのかと思っていたら2年2ヶ月だという。売れっ子脚本家がそれだけの歳月を捧げた作品なのだ。
特に芹沢鴨のキャラクタについて語っている回と、ラストシーンを撮りおえたあとの香取慎吾のエピソードは、心に残るものがあった。

しかしながら三谷幸喜はおもしろい人だ。
いまや世の中のほとんどの人が彼を出たがりな脚本家であり、最近は映画監督である、ということを知っている。映画のプロモーションのためにしては張り切りすぎなバラエティ出演もこのところスベリ知らずといった感じでこなれてきているわけで。
そこで興味を持った人はこのエッセイをぜひ読んでみて欲しい。ここにはその印象とまったく同じ人がいる。小心者で気弱そうなのに出たがりでおもしろいことを言い、じゃっかん皮肉屋。なんてそのままなんだ、と驚くくらい。自らの生活を自らが描くエッセイで、傍から見た印象と変わらない人がそこにいるように書くことは、実は凄く難しいことだろう。

三谷家の内情も毎回のお馴染みになっているけれど、もっと読みたい部分でもある。
女優の妻。飼い猫のおとっつあんとオシマンベ。ラブラドールのとび。捨て猫のホイ。今回はかなり出番少なめだったけれど、相変わらず微笑ましい関係性が保たれていて、一度でいいからその実際の光景を見てみたい。でも友人も家に上げない三谷家のことだ。それは一生叶わない夢・・・。

このエッセイを読んでいて浮んでくる言葉は「好きこそものの上手なれ」。素晴らしいコメディ脚本を次々と筆者が産み出せるのは、誰よりもコメディを愛しているからに他ならない。ビリー・ワイルダーやキューブリックに対する畏敬の念や、坂上二郎やミヤコ蝶々、小堺一機といった喜劇人への羨望の眼差しは自らの仕事に対するモチベーションとなって常に彼を掻き立てている。
もっとおもしろいものを。今より素晴らしいものを。
これだけのキャリアがあってこれだけストイックな姿勢を当たり前のものとして平熱で保っていることが、ほんとに凄いと思う。
そしてその彼の熱が高ければ高いほど世の中の人の笑顔は増加の一途を辿るわけで、なんて素敵なサイクルだろう。

次巻ではいよいよ「THE 有頂天ホテル」の監督業の日々が待っているようでますます楽しみ。最近のご本人の発言では今までより早いタームで監督業をやっていく意向があるようなのでそれもますます楽しみ。
by kngordinaries | 2006-02-10 01:32 | 本、雑誌、マンガ


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