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宇多田ヒカル UTADA UNITED 2006 静岡エコパアリーナ(20060708)
静岡エコパアリーナ、とちゃんと聞いていたはずなのに、ライブ直前まで競技場で行われるものだと勘違いしておりました。
サッカー場でやるなんてもの凄いじゃないかと、一体どんなスペクタクルなステージが行われるのかと、妙な期待が膨らんでました。

静岡エコパとは静岡県は袋井市の小笠山総合運動公園のこと。
その公園内にはさまざまな施設と広場、森林、があり、そのうちの一つにエコパスタジアムとエコパアリーナがあるということで、今回のライブはエコパアリーナという名の体育館で行われるというのが正解。

会場内はアリーナというだけあって、かなり広め、最大1万人収容とのことでこの日はソールドアウトらしくぎっちり埋まっていた。
客層はかなり幅広く服装も普通のレジャー施設とかの人ごみの風景と変わらない印象。

宇多田ヒカルがそれだけ空気のように世の中に浸透している音楽ということなんだろうと思った。彼女ほどのセールスを誇るアーティストは他にほとんどいないから比較しにくいけど、いわゆるミリオンアーティストのライブでも普通は客層にもうちょっと偏りがあるんじゃないかと思う。

定刻を10分ちょっと過ぎて、客電が落ち、ライブが始まった。


※この先公演中のツアーについてネタバレがあります。ご注意ください。







客電が落ち、大音量で幻想的で雄大なイントロが流れ出す。聴き馴染みのあるドラム。

passionでライブはスタート。くっきりと力強い歌声と壮大なバンドサウンドが巨大な会場を一気にうねりの中に引きずり込んでいく。しびれるほどかっこいい。
さらにイントロが鳴り響くとフロアが一気に沸きあがる早くも最新の宇多田アンセムと言っていい「ULTRA BLUE」の1曲目にしてキラーチューン、This is Love。自然な耳心地ながら刺激と緩和が絶妙にブレンドされたメロディとすっと耳に残る言葉と風通しよく新鮮なビート。ポップス好きには快感に抗えない完璧なポップチューン。

ステージは後方の全面にLEDのスクリーン、ステージ手前にも可動式で縦長のLEDスクリーン4枚ほどが配され、曲に合わせてVJのような映像のコラージュが展開されていた。といってもデジタルなCGではなくて、空や動物など有機的なものの写真を取り込んで加工してあるような、独特の映像。
ステージ上は白と黒が鮮やかなゴージャスなドレス姿の宇多田を中心にバンドメンバーがいるのみ。特にセットはなく、LEDスクリーン以外はシンプルなものだ。

This is Loveが終わってもドラムンベースっぽい基調となるトラックが鳴りつづけ、ダンサブルな雰囲気で高揚していくステージ。盛り上がっていこう!という感じのヒッキーの煽りからなり続けるトラックに次の曲の上物がかぶさってくる。
なんとTravelingだ。スクリーンには発売当時に鮮烈な印象を与えたPVの映像が流れ、弾むようなリズムとキラキラしたビートが躍動する。ハンドマイクでステージを縦横に動き回り煽るヒッキー。歌声も勢いを増して、最高のライブ空間へ。
さらに基調のトラックは流れ続け体を揺らす中、続いてはMovin'on without you!!正直、何年も聴いていなかったけれど、音が鳴った瞬間血が騒ぐ、最強ポップチューンだ。というか、この人のシングルで最高でないものがあっただろうか。

98年の年末にデビューシングル「Automatic/time will tell」で一気にJ-POPシーンを刷新してしまったその衝撃は、いまさらながらとてつもなく大きかったと思う。
ほぼ同時に椎名林檎やDragon Ash、つんくプロデュースのモーニング娘。等々、完全に新しい波が巻き起こって音楽シーンは一変した。それはジャンルの細分化・多様化を進め、結果的にはビッグセールスが生まれにくい状況を生んだけれど、音楽ファンがそれぞれに深化してフェス等、生の音楽体験の価値が高まることにもなった。
宇多田ヒカルは、音楽的な豊饒・新しいビート・鋭くオリジナリティ溢れる表現、というハードルをJ-POPに課した。それは当時のシーンにとって超難題といえた。あまりにも圧倒的に他を突き放すトップランナーの登場によって、全体のペースは乱れながらも一気に上がったんだと思う。

圧倒的なヒットパレードが一息つき、MCへ。
「みんなー!盛り上がってるか!(照)」
といまいち突き抜けない、照れのあるつたないMCが、圧倒的パフォーマンスとのギャップで安心させるような、肩透かしのような印象。
「静岡は湿気が凄いね!いやーじめじめするし、湿気が嫌いな人って多いけど、喉にもいいし、しっとりしてお肌にもよさそうだし、私は湿気大好き!」
とかなんとか。
「将来、引退したら静岡に住んで美味しいお茶飲んで暮らしたいよ!」
と妙なリップサービスも。テレビのトーク番組等で見かける、ちょっと挙動不審ながらもざっくばらんで素直な語り口そのまま。

SAKURAドロップスFINAL DISTANCEとミディアムからバラードへしっとりと展開していく。サウンドメイクやメロディも凄いけれど、やっぱりこの人は喉の人かもしれない。圧倒的に心に響く吸引力を持った歌声。そういえば白と黒のコントラストが鮮やかなヒッキーの衣装はFINAL DISTANCEのPVを想起させる。SAKURAではスクリーンに桜の映像も。
そしてFirst Love。もうほんと、1曲1曲の凄さ、よさ、そのシーンに与えた影響を言ったらきりがなくなるけれど、この曲も圧倒的なラブバラード。初期の彼女の得意としていたキラキラしたまっすぐなラブソングの決定版。多分この曲まできて初めてスクリーンにステージ上の宇多田ヒカルが映されたと思う。

曲終わりでステージを去るヒッキー。スクリーンに映像のコラージュが映され、自然の音をサンプリングしたようなサウンドが流される。
数分後、バンドの演奏が始まり、衣装を赤いドレスにチェンジしたヒッキーが登場し、Devil InsideKremlin DuskYou Make Me Want To Be A Manと、英語詞の曲たちを次々と披露。ここまでの打ち込み中心のサウンドから一転してバンドサウンドで聞かせる。大会場にも関わらず演奏が抜群に心地よく素晴らしかった。

続いてさらに音を減らし、チェロとボーカルのみのシンプルな編成でBe My Lastへ。リズム隊もおらず、難しい趣向だけれど、やはりヒッキーのボーカルがどんどん走ってしまい、ピッチも今ひとつで、ちょっと聴きづらいものになっていたのが残念だった。
さらに次もキーボードが加わる程度のシンプルな編成のまま誰かの願いが叶うころへ。言葉の強度と自由度が高まった「ULTRA BLUE」の曲群の中でも特にメッセージの鋭さが際立つ名バラッド。LEDのスクリーンには、銃で狙いを定める米兵、キノコ雲、日本人の子供の笑顔、炎上する建物、飢餓に苦しむ中東の人々、爆発、空、木でこしらえた小銃を構える中東の少年、と次々と映し出されていく。エゴや願いや悲しみや救いといったものを、あくまでフラットな視点で捉えて、それでもあふれ出る感情を歌ったこの曲の深いメッセージをはっきりと伝える演出。
さらにバンドも加わり、COLORS。テンポチェンジが繰り返されるこの曲も生のバンドアレンジでちょっと感触を変えて披露。時間軸や舞台設定が不明確で感覚的な歌詞世界と浮遊するようなサウンド。思えばこの曲が最近のヒッキーの作風の始まりだったような気がする。

MCではチェロへの憧れや思いを語るも反応がいまいちの会場にあせるヒッキー。
そして
「ちょっとしっとりした感じの曲が続いたけど、限られた時間なわけだし、ここからは盛り上げていくからね!みんなついて来いよ!(照)」
というMCから怒涛の後半へ。

Can you keep a secret?が鳴り響くと一気に会場のボルテージは上昇。ステージ全体を動き煽るヒッキー。最強のアップチューン。さらに連発する大ヒット曲たちの中でも特大のヒットチューン、addicted to youのチキチキビートでフロアの熱気は爆発。バッキバキのビートとエモーショナルなボーカルが熱い。
さらにここでWait&See~リスク~。もう最高すぎる。迫力のサウンド。
ちょっとテンポを落とし、和なメロディとアレンジが心地いいLetters
そして本編ラストチューンは最新シングルでもあるKeep Tryin'。宇多田ヒカル流の応援歌であるこの曲で締め、スクリーンには汗だくで熱唱するヒッキーと、盛り上がる観客の映像が交互に映し出され、サビでは観客一人一人の顔をアップで映す演出も。
僕はここで本編ラストチューンで聴くまで、なんとなく「Keep Tryin'」は純粋まっすぐな気持ちで歌われた応援歌だとはいまいち思えずにいたけれど、これこそがほんとのシリアスな応援歌なんだ、という確信を持った表現だったことがよく伝わってきた。

アンコール1曲目はバンドアレンジのAutomatic
このモダンで不思議な浮遊感を持ったメロディが、温かみのあるバンドサウンドにとてもマッチしていて最高に心地いい。サビで片手を天に突き上げるようなポーズを取るヒッキーは最強のポップスターだった。
ここだったか、本編後半のMCだったか、こんな話もあった。
「ここに来てるみんなは、それぞれ普段は悩みがあったり、抱えてるものがあったり、すると思うんだけど。でもそういうのを一時忘れて今ここで楽しく過ごしてるわけじゃない?きっと帰ったらいろいろ考えなきゃいけないこと、やらなききゃいけないこと、とかそういう現実にまた立ち向かわなければならないわけでしょ。そういう意味ではみんなそれぞれ別々なんだけど、今は全部さらけ出して楽しんで欲しいし、自分も含めて裸になっちゃえばみんなほとんど同じわけじゃん。ここで服を脱ぐわけにはいかないし、脱いでほしくもないけど(笑)こころの服は脱いでみんな一緒に盛り上がろうよ」
と何度もどもりながら照れながらも語るヒッキー。若くして大きく成功したことや、ライブ経験の少なさや、物事の本質を見極める鋭い洞察力、等々、いろいろな要因でこの天才アーティストはまだライブ会場でのお客さんとのコミュニケーション方法を決めかねている。それは慎重で、真摯で、本気で向き合っているからこその葛藤や逡巡だと思う。勝手な感想だけれど、「ライブはしない」と言っていた初期の中村一義と印象がダブる。
どこかのMCでも、またこれからライブをどんどんやっていきたい、と言っていたけれど、あまりにも過剰に盛り上がった状況を過ぎ、冷静によりディープな表現に踏み出した「ULTRA BLUE」と、大ヒットチューン連発で観客に向き合うこのツアーから、宇多田ヒカルは新しいステージへ上がっていくんだと思う。
最後は
「自分にとって特別な思い入れがある曲だから、ライブの最後はこの曲で終わりたい」
という紹介からで紙ふぶきがキラキラと舞う中で、ライブ終了。


とにかく披露される曲のほぼ全てが大ヒット曲なわけで、それが原曲どおりだったり、リミックスされていたり、バンドアレンジだったり、といろいろなサウンドの趣向で楽しませてくれるところがとてもよかった。

J-POP全般を本気で聴き倒していたころの感じがいろいろ甦ってきたり、個人的になんだか感慨深いライブだった。ヒッキーがアルバム「First Love」を出したころのある音楽評論に「宇多田ヒカルはB29である。J-POPの敗戦だ」という印象的な言葉があった。それくらいこの人の登場は衝撃的だったし、この人の登場で全てが刷新された感があった。

ライブ予習で聴いていた「ULTRA BLUE」のアルバム曲はほとんど披露されなかったけど、こういう機会がなければ、このアルバムをスルーしてたかも、と思うと幸運だった。このアルバムを聴いて、ライブを観たことで今後のヒッキーの活動がもの凄く興味深く感じられるようになったからだ。
by kngordinaries | 2006-07-10 03:15 | ライブ


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