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Jubilee、こんなくるりの音楽が聴ける歓び
Jubilee

歓びとは 誰かが去るかなしみを
胸に抱きながらあふれた
一粒の雫なんだろう

なんで僕は 戻らないんだろう

雨の日も風の日も


「NIKKI」、そしてベスト盤をリリース後の久々のくるりのニューシングル「Jubilee」にもう骨の髄まで蕩かされてしまっている。

最初に聴いたときにはそうでもなかった。
前評判どおりクラシック音楽の要素が多分に配されつつも自然なアレンジと、思わず息を飲むほどの美しいメロディに感じ入りつつも、素晴らしい名曲を生み出し続けてきたこのバンドの中で突出した1曲ではないような気がしていた。
ただ、なにか違和感があった。

特に気になったのは、アレンジの中でのリズムの比重だった。
昨今のダンスミュージックとかで使われるクラシックはどちらかというとゆったりと流麗な要素となり、そこにビートを入れるのはあくまで打ち込み、というのが基本形だと思う。しかしこの「Jubilee」のなかでのリズム隊は、メインで主張する弦や鍵盤に対してあまりにも静かに寄り添うだけなのだ。
いまどきビートを感じさせないポップミュージックはない。じゃ「Jubilee」はポップじゃないかというとそんなことはないと誰もが断言できる作品になっている。

メロディの中に、ハーモニーの中に、言葉にはできない音の移り行く時間の経過の中に、そういったものに内包されたビートを丁寧に掬い上げている、といえばいいだろうか。
とにかくメロディやハーモニーをどこまでも大事に、それに添ってリズムを組み立てた結果、とてもポップな音楽がここには生まれている。

くるりといえばリズムにはどこまでも気を使うバンドだ。
いつかのときには停滞する邦楽ロックにリズムの重要性とそこにこそ革新性が込められると知らしめたうちの一組でもある。ビートに新しい耳障りがあることが重要なことであることを啓蒙した一組でもある。
そんなバンドがこんなふうに表現のベクトルを切り替えたことが、なんだか違和感を感じた一因だったんだろう。

聴けば聴くほどにこの曲はたまらなく耳に優しい。もうここのところ口をつく鼻歌は95%越えでこの曲のサビのメロディ。とにかく病みつきなのだ。
この曲を聴いているときに、くるりというバンドやそのメンバーのビジュアルやこのシングルのオリコンランキングや、もっと言えば時代も目の前の風景も頭の中にない。音の世界以外の要素は関係なく音楽に浸って聴ける感じが強くある。
うどんでいえば素うどんである。(←微妙なたとえ)

そして思い返してみるとくるりといえばそういう作品を作ってきたバンドだった。
純粋な音楽的探究心のなかで、リズムやビートに寄り添った時期もあったけれど、本当の軸はとにかく広い意味での音楽対自分。それがくるりだった。
だからこの作品はそんなこのバンドの道程の先を示すものとしてなんら矛盾しないし、むしろ大納得な進化なんだ。結構何回も聴き倒して、やっと思い至った。

個人的な文脈で語らせてもらえば、メロディを塗りたくる世相の中で、リズムとグルーヴだけでいいだろと作品で示した奥田民生の「マシマロ」と同じくらい衝撃的に、「Jubilee」は今のポップ・ミュージックに対してカウンターを放てていると思う。
そして「マシマロ」と同様に「Jubilee」もパッと聴き全く持って最高のポップミュージックであるところが大変に素晴らしい。


ともすれば音楽以外の様々な要素に目を奪われがちな音楽シーンの中で、まっすぐに音楽を追求するくるり。
それはとても素晴らしいことであると同時にとても困難なことでもあるし、実際彼ら自身も軸がブレたことはあったように思う。
そんな中で届いたこの作品は、このバンドの未来だけでなく大げさに言えば音楽シーンの未来をも照らす一筋の光になるんじゃないだろうか。

というか、くるりといえばそういうバンドだったんだった。
by kngordinaries | 2007-06-24 14:51 | 音楽


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